6年制の獣医学部は獣医師になるための教育課程ですが、医療に関する知識や解剖学、生理学などの生命科学全般の学問学べるため、生命科学系・バイオ系の研究者として活躍することもできるんですよね。
とはいえ、獣医学部を目指している人や、獣医学部に入学したばかりの学生さんだと、以下のような疑問や不安を持っていることもあるかと思います。
・獣医学部から研究職に就くことができるの?
・獣医学部卒で研究職の就職先ってどういったものがあるのかわからない
・将来研究職に就くためには大学はどこがいいか(有利か)を知りたい
そこで本記事では、獣医学部卒で研究職を目指す場合の進路と考慮するべきポイントについて整理、解説していきたいと思います。
・獣医学部業後はもっと研究をやりたい
・獣医学部の就職先について知りたい
・臨床獣医師の仕事にいまいち興味がもてない
といたった方々の参考になれば幸いです。
獣医学部から研究職に就くことは可能
冒頭でも書いたように、6年制の獣医学部を卒業後、獣医師免許を取得しているにもかかわらず、臨床獣医師として勤務せず、研究職に就く(あるいは、希望する)学生は意外と多いですし、可能です。
せっかく獣医師の国家資格を持っているのに、それを活用せずに「研究職」に就くのはもったいない、と感じる人がいるかもしれません。
しかし、実際のところ、獣医師に国家試験に合格するために必要な知識は、研究職を始めとした多くの関連分野で役立つものが非常に多いです。
そのため、たとえ臨床獣医師の仕事をせずに研究職についたとしても、大学で学んだことは存分に役立ちます。
獣医学部卒の人材を受け入れる企業や公的な研究機関はそのことを十分に知っているため、「獣医学部卒→研究職」はごくごく自然な流れなのです。
「獣医学部から研究職」を志望する理由
獣医学部での学習内容や臨床獣医師をとりまく現状をよく知らない人にとって、せっかく取得した獣医師免許を行使しない(=臨床獣医師をやらない)ことは「?」と感じるかもしれません。
まーこれにはいくつか理由がありまして。
あえて研究職を目指す理由はざっくりと以下の3つのどれか、あるいは複数の項目が該当することが多いようです。
・臨床獣医師の仕事に魅力がない
・獣医学や関連する分野の研究に強い興味がある
・じつは動物が苦手
説明していきましょう。
「獣医学部から研究職」を志望する理由:臨床獣医師の仕事に魅力がない
臨床獣医師として働く場合、いわゆる「まちの動物病院の先生」として働くか、畜産関連の分野にて、家畜の健康管理を行うかのどちらかになります。
実際多くの獣医学部志望者や在学生は「まちの動物病院の先生」を夢見ている人も多いと思います。
しかし実は、この「まちの動物病院の先生」は、近年飽和気味となっていて、特に都心部では個人小規模な動物病院が乱立して非常に激しい競争となっていることもあるようです。
結果的に、動物病院の獣医師(特にやとわれの勤務獣医師)の給与面や労働条件といった待遇は決して恵まれておらず、獣医師になるまでの努力やかかった学費に対して「割があわない」という意見も多いのです。
一方で、畜産関連分野の獣医師については、多少、給与面での待遇はいいものの、早朝勤務であったり、自身の何倍もの体重の動物のケアするため、体力面でかなりキツイこともあります。
上記のような理由で、「臨床獣医師」の進路にあまり魅力を感じない学生・獣医師免許保持者が多い、という背景があるのです。
「獣医学部から研究職」を志望する理由:獣医学や関連する分野の研究に強い興味がある
当初は獣医師を目指して獣医学部に進学したものの、学ぶうちに、獣医学そのものや関連する生命科学系の分野の学問・研究への興味が強くなることがあります。
こういった人は、将来の進路として臨床現場で活躍するよりも、研究機関に所属して「研究員」として働くことを志望します。
まーこれは獣医学部に限ったことではなく、理系学部全般にいえることですが、研究活動って結構楽しいんですよね。
楽しいことを仕事にしたい、そんな純粋な気持ちです。
もちろん、将来大きな発見をして研究成果を挙げたいとか、研究を通じてより多くの動物の健康や命を守りたい、と考える人もいます。
「獣医学部から研究職」を志望する理由:じつは動物が苦手
獣医学部を卒業したものの、臨床獣医師ではなく研究職を志望する人の中に、まれに「実は動物が苦手」という人がいます。
ペットとして数匹の動物を飼っていて、自分は動物好きだと思っていたものの、臨床獣医師として数十頭もの(他人が飼っている)動物をひたすら診察するのが苦痛だったり、畜産関連の大きな動物が実は苦手だった・・・という人もいるようです。
こういった人は、仕事で毎日たくさんの動物と接するのは避けたいでしょう。
その結果、研究職という進路が選択肢として出てくるわけです。
獣医学部卒で研究職に就く場合の就職先
獣医学部卒(獣医師免許保有)の人材が研究職に就く場合、多くの選択肢(=就職先)があります。
いくつか例を挙げておくと、
・獣医学系あるいは生命科学系の大学教員
・製薬や食品などの民間企業研究員
・公的機関・準公的機関の研究員
といったかんじです。
簡単に説明していきましょう。
獣医学部卒で研究職として活躍する場は?:大学教員
獣医師免許を持ちつつ、臨床獣医師ではなく研究できる環境で仕事をしたい、という場合一番イメージしやすいのは大学の教員(あるいは研究員)でしょう。
自身が在籍・卒業した大学・研究室で、助教や助手のポジションが空いていたので、卒業と同時に職員として採用・・・というケースも多いですね(近年はポジションの空きが少なく、事例としては少なくなっていますが)。
また、出身大学や出身研究室にこだわらず、獣医学部以外の、生命科学系の学部で教員になる機会もあります。
ただし、大学教員となるわけですから、研究だけではなく学生実習や講義の担当、学内の雑務も業務として担当するため、100%研究に打ち込めるわけではありません。
基本的には「大学教員=博士号の取得者」というのが通常ですので、獣医学部を卒業後、さらに4年間、大学院の博士課程に在籍し、博士号を取得することが必要です。
獣医学部卒で研究職として活躍する場は?:民間企業研究員
前述のように、獣医学部では、生命科学に関する知識を広く習得することができます。
医学、薬学、公衆衛生学、食品衛生学、栄養学、生理学、解剖学・・・などなど。
そのため、かなり幅広い分野の民間企業にて、研究職に就くことができるでしょう。
例えば、下記のような企業ですね。
・動物用飼料あるいはヒト用食品の生産・開発企業
・実験試薬を取り扱う企業の研究職
・動物用あるいはヒト用医薬品の生産・開発企業
・農業、畜産分野の技術開発を行うバイオテクノロジー関連企業
こういった企業の研究職は、上で挙げた大学教員よりも募集枠が大きく、企業規模によってはかなり待遇も良いケースがあります。
そのため、獣医学部卒で研究職に就きたいと考える人材の受け皿として非常に重要になります。
獣医学部卒で研究職として活躍する場は?:公的機関・JRA研究員
獣医学部卒で、研究職への進路を考えたとき、公的機関やそれに準ずる機関での研究職、技術職員として働くという選択肢もあります。
公的機関として代表的なものは国や地方自治体の保健衛生研究所の職員、あるいは、理化学研究所や産業総合研究所といった大きな公的研究機関の研究職のポストが挙げられます。
これらの職員は公務員あるいはそれに準ずる待遇で採用されることになります(場合によっては数年単位の任期制であることも)。
また、準公的機関として有名なところとしてJRAの職員も人気のある就職先です。
JRAの場合、ちょっと特殊でして、業務としては競走馬の健康管理をする「臨床獣医師」としての役割と、競走馬に関する研究を行う「獣医学研究者」としての両方の役割を担うことになりますね。
研究もしたいけど、臨床獣医師も捨てがたい・・・という場合はJRAはベストな選択肢の一つかもしれません。
獣医学部から製薬会社研究職、大きく異なる2つの選択肢
獣医学部から「製薬会社の研究員」という選択肢について、もう少し詳しく書いておきます。
獣医学部卒で「製薬会社」で働くにあたり、2つの選択肢があります。
一つは「動物用医薬品の製薬会社」です。
そしてもう一つは「ヒト用医薬品の製薬会社」となります。
獣医学部=動物の医療という構図ですから、動物用医薬品の製薬会社はイメージしやすいと思いますが、意外とヒト用医薬品の製薬会社もいけちゃたりします。
というか、就職先としての定員(採用枠)としてはヒト用医薬品の製薬企業のほうが多いのではないかとおもいます。
企業の数や規模そのものが、ヒト用医薬品産業のほうが多いですからね。
獣医学部から動物用医薬品の製薬会社研究職とその業務
獣医学部から動物用医薬品の製薬会社で研究職に就くと、当然ですが、ペット動物や畜産動物用のワクチン、疾患治療薬の開発を行うことになります。
あとは診断薬や、薬品を投与するためのデバイス、サプリメントの開発に関わることもありますね。
基本的に、動物の健康や生命のために仕事ができるので、獣医学部を卒業した人にとって非常にやりがいのある仕事かと思います。
臨床獣医師として働かないものの、動物のために役立てるというのは大きなメリットとなります。
ただし、デメリットとしては、後述する、「ヒト用医薬品企業」よりも若干年収・報酬面で劣ることでしょうか。
また、日本国内で、動物用医薬品の研究開発を行っている企業は非常に少なく、大手企業は欧米の企業が主となっていますので、研究職ポストは狭き門となっています。
獣医学部からヒト用医薬品の製薬会社研究職とその業務
ヒト用医薬品の製薬会社で研究職に就く場合、あくまで「ヒトのための」医薬品の開発を行うことになります。
この場合、獣医学部卒の研究員に期待される役割としては主なものは、ヒト用医薬品候補物質の「毒性試験」です。
具体的には、毒性研究所に所属して、候補化合物を、マウスやイヌ、サルなどに投与して、毒性の有無を書くにすることになります。
投与後には、各組織片を観察して、微細な異常やヒトにとって有害な事象につながる変化がなかどうかを確認する役割です。
近年、動物愛護の観点から、こういった実験動物を使った毒性試験を極力減らす工夫もなされていますが、基本的には、人間(の医薬品を開発する)ために、動物を殺害する仕事です。
もともと「動物が好き」で獣医学部に進んだ人にとっては、この業務は辛いのかもしれません。
とはいえ、メリットとしては、製薬企業=高年収というイメージどおり報酬面でかなり優遇されており、30代で年収1000万円も狙えます。
また、動物ではなく「ヒト」の健康に寄与する仕事をしていることは、世間的にも高く評価されるでしょう。
獣医学部卒で研究職に就くには大学はどこがいい?
ここまで書いたように、獣医学卒の進路として「研究職」は非常に魅力的なものです。
とはいえ、それなりに人気のある就職先を狙うなら、臨床獣医師になるよりも「狭き門」となっていまして、競争を覚悟しなければなりません。
では、獣医学部卒で研究職に就くにあたり、有利になる大学というのはあるのか?という点について書いておきます。
結論を言うと、将来研究職を狙うなら、「旧帝大系の獣医学部」が一番です。
こういった大学は公費で多額の研究費を投入していますし、多くの有名な研究者を輩出しています。
そのため、学生の研究レベルが高く、企業としてもこういった大学の研究室とパイプが持つことを望みます。
結果、就職の採用において、「旧帝大の獣医学部卒」は非常に有利になります。
その次に、都心の国公立大学、そして地方の国立大学、という順序ですね。
基本的に国公立大学卒のほうが企業受けが良かったり、大学教員のポストの「お声」もかかりやすいです。
将来「研究職」も視野にいれているならこういった国公立系大学の獣医学部を狙うほうが良いでしょう。
逆に、私立大学系の獣医学部だと、研究職というよりも臨床獣医師養成(獣医師国家試験対策)が中心となりますので、高い研究能力をつけるのは難しく、なかなか研究職のポストにありつけないようです。
獣医学部卒で研究職を目指すという進路を考察【まとめ】
以上、獣医学部卒で、臨床獣医師ではなく「研究職」という進路を目指すことについて考察、整理しました。
基本的には、獣医学部卒で研究職に就く人はたくさんいまして、進路としては十分ありえるものです。
かならずしも「獣医学部=臨床獣医師・街の獣医師さん」というわけではないのです。
具体的には、大学教員や、民間企業(製薬企業)の研究職あるいは公的・準公的機関(JRAなど)で働くのがメジャーなところでしょうか。
とはいえ、これらの採用枠は決して多くはなく、競争はそれなりに激しくなります。
研究職を考えた場合、やはり、「十分な研究資金をもった有名国公立大学の出身者」であることは有利になる要因です。
なので臨床獣医師の進路ではなく「研究職」も視野に入れて獣医学部を目指す場合には、国公立大学、できれば旧帝大・都心部の大学を選ぶ方が良いでしょう。
それじゃあ今回はこれ位にしておきます
では。
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