薬剤師がいらなくなるパターン3つと、それが「非現実的」である理由を整理した


将来薬剤師はいらなくなるのだろうか。

そんな不安を抱えている現役薬学生や薬剤師の方もおられると思います。

最近では薬剤師会や行政が、今後訪れる超高齢化社会と、医療費の削減の時代における薬剤師の在り方について議論が始まっていることも背景にありますね。

ただでさえ、薬剤師は「処方箋に従って棚から薬と出すだけ」と一般の人に理解されている節があり、「将来、薬剤師っていらなくなるらしい」「薬剤師ってもういらないよね」という噂も耳にします。

果たして本当に「薬剤師はいらなくなる」んでしょうか。

本記事中では、薬剤師がいらなくなると想定した場合のパターンを3つ紹介し、その実現性について整理しています。

まー、結論を書いてしまうと、そのいずれのパターンも現時点での実現性はとても低く、将来「薬剤師はいらなくなる」とは到底思えませんので、薬学生や薬剤師の方々は安心して読んでもらえればと思います。




薬剤師はいらなくなるといわれている


「薬剤師はそのうちいらなくなる」、最近では「薬剤師は近い将来AIに置きかわる」なんて言われています。

薬剤師の仕事は、医師や看護師と異なり、患者の体に直接触れることはありません。

処方箋の疑義紹介や、服薬指導といった頭を使っただけの業務が多いため、機械化ができそうな単純な業務と思われているのです。

また、薬剤師の仕事自体、「存在価値が分からない」、「棚から薬を出して、添付文書読んでるだけ」、「薬剤師の服薬指導や、質問がうざい、めんどくさい」といった批判を浴びることもしばしばです。

こういった、単純業務である(と思われている)点と、薬剤師の役割があまりよく思われていない点から、「薬剤師はそのうちいらなくなる」「薬剤師不要」といった考えが一部の人たちの中にあるのです。

薬剤師「いらなくなる」と「飽和する」は違う


薬剤師や薬学生の危機感をあおる意見として、「薬剤師いらなくなる」ともうひとつ「薬剤師飽和する」というのがあります。

ちょっとここで書いておくと、この二つは全く別問題ですね。
前者は、薬剤師という職種、資格そのもののがいらなくなる、なくなるという話ですね。

一方、後者は単純に薬剤師(薬学部卒業生)の供給過剰または薬剤師の需要減によって、薬学部を卒業した者の働き口が無い、というものです。

まー、どっちも現実になれば、薬剤師や薬学生は困るんですけど。

薬剤師の「役割」は今の医療システムには必要


まず、薬剤師はいらなくなるとか、薬剤師の役割は不要なんて言われることがありますが、これって本当なのか?って話です。

結論は、今の医療システムには薬剤師の役割は必要です。

医療ミスのニュースがたびたび報道されていますし、報道されないものもたくさんおきていますよね。

今の医療システムは、医師が指示を出したり、処方箋を発行する「最上流」にいます。

その後、下流で看護師や薬剤師がチェックを行い、最終的に患者のもとに届くのです。

実は、指示や処方のミスが現場で発見され、ヒヤリとする事象が実際におこる医療ミスの何倍もおきています

つまり、もし薬剤師(あるいは看護師も同じですね)の役割がなくなれば、医師の医療ミスの確率が単純に増える、ということになります。

ちなみに、実際に起きている医療ミスを調べると、「看護師による指示や手順の誤りが最も多い」」そうです。

この理由は、看護師による指示や判断については、下流でチェックする機構が無いからといわれています。

医師は物理的には最も患者に近いところで治療を行っているけれど、実は最も遠いところから治療を行っているのです。

医師と患者の間には、何重ものチェックポイントがあるんですよね。
まー患者の安全を考えれば当然といえば当然です。

そのため、「医師のミスが現状よりも増加すること」を社会が受け入れない限りは、薬剤師の役割自体は必要です。

て読んでもらえればと思います。


薬剤師がいらなくなるパターン3つと非現実性



では、それでも薬剤師を無くすぞ!という場合、どんなパターンが考えられうでしょうか。

薬剤師の役割自体は必要ですので、「誰か」が代わりに担わなければなりませんよね。

噂される3つの「薬剤師がいらなくなる」パターンについて、その現実性と合わせて整理していきます。

薬剤師がいらなくなるパターン1:医師が薬剤師の役割を担う

薬剤師が行っている、医薬品の調剤、服薬指導、そして医師の処方箋の確認と疑義照会といった役割を医師が担うことは可能です。

基本的に、医師が持っている権限のうち、医薬品の取り扱いや管理に関するものを付与されているのが薬剤師ですからね。

しかし、この場合、当然医師の仕事が増えます。

ただでさえ、慢性的な医師不足に悩んでいる地域にとってこれはきついでしょう。

それに、薬剤師の2倍以上の生涯年収になるような高給取りの医師に、薬剤師でもできる業務をさせることは、社会福祉予算の無駄遣いです。

そのため、このパターン(医師が薬剤師の役割を担うことで薬剤師がいらなくなる)の現実味はありませんね。

薬剤師がいらなくなるパターン2:看護師が薬剤師の役割を担う

看護師が、薬剤師がやっているような医薬品に関する業務をになうことがあるでしょうか。

現在のルールでは、看護師は医薬品に関する業務を行うことはできません。

じつは、まだ薬学部が4年制だった20年ほど前には、「看護師の教育課程を改変(例えば3年制から4年制に変更)あるいは、既存の看護師資格保持者が追加で教育を受けることで、薬剤師と同じ権限を付与する」という案がありました。

当時は薬剤師教育と看護師教育がたった1年しか変わらなかったんですね。

医療の現場でも、「薬剤師は楽そうなのに高給」ということで看護師によく思われていないため、実現するんじゃないかとハラハラしていた薬剤師もいることでしょう。

看護師会はノリノリでしたが、当然薬剤師会は反対しますよ。

しかし結局、この案は薬学部が6年制になってからは消えてしまったようです。

まー、ただでさえ忙しく、ばたばたと働いている看護師が、医薬品の管理までやると大変だと思いますし、いまでは現実味はありません。

て読んでもらえればと思います。


薬剤師がいらなくなるパターン3:AIが薬剤師の役割を担う

薬剤師の業務って、書類(処方箋)のチェックや、服薬指導みたいな情報提供が中心です。

そのため、「機械化できる、最近のAIすごいし!」って思う人がいるでしょう。

でも、これはかなり現実味がないです。

というのも、まず、今のAIはまだまだそんなレベルではありません。

ごくごく単純な会話や、情報収取ができるだけすから、一般の商店や工場、会社では徐々に実用されてくろとは思います。

でも、医療現場のように「ミスが直接人命にかかわるため、絶対に許されない」状況で使用できるにはかなりの技術革新が必要です。

おそらく、ミスをしない医療用のAIとなると、非医療用Aiとくらべてはるかに高度な技術と、開発コストがかかります。

現時点では、なかなか参入できない領域だと思いますよ。

また、「莫大な費用をかけて開発した高度な医療用AIよりも、素直に薬剤師を雇用したほうが安上がり」という時代が続く限り、AIによって薬剤師がいらなくなることはありませんね。

それに、人間である薬剤師がミスをした場合は、本人が責任を取ることになりますよね。
でもAIがミスしたら誰が責任をとるでしょうか?

そのあたりのルール作りや、法整備もまだまだ先の話です。

薬剤師がいらなくなることは無いが、需要は必ず減る


ここまで書いたように、完全に薬剤師がいらなくなることは当面ありません。

たとえAIが日常生活に浸透してきても、医療従事者の仕事を奪うのははるかに先の未来の話です。

ただし、高齢化社会になると同時に、人口が減少してくるのが日本の未来です。

医療費をはじめとした社会保障費はこれから削られていくため、薬刺師の業務のスリム化は勧めていくことになります。

その結果、需要は必ずどこかのタイミングで減っていきます。

「薬剤師がいらなくなる」ことは無いですが、需要が減って「薬剤師飽和」にはなりかねません。

ただし、薬剤師のような国家資格職は、大学の薬学部定員を調整することで過度な供給過剰という事態は避けることができるため、なんとかなりますよ。

て読んでもらえればと思います。


薬剤師がいらなくなるパターン3つと、それが「非現実的」である理由を整理した:まとめ


ということで、薬剤師の仕事自体は、なんだかんだ言っても今の医療システム上、なくてはならないものです。

今のところ、AIを含めて薬剤師にとって代わりそうなものもありませんので、当面薬剤師がいらなくなることはありません。

だから、現役薬学生、薬剤師は心配無用です。

でも、「薬剤師飽和」または、それを防ぐための「薬学部定員の削減」は必ず起きてきます。

一部の大学では薬学部が消滅したり、大学そのものが倒産してしまうでしょう。

多分、そのとき一番やばいのは、薬系大学の教員、職員ですね。

地方私立大学の薬学部や薬科大とか、一番危ないかもしれません。